古文書・古記録を読解するためのスキル~公卿補任~

古文書・古記録を読解するためのスキル~公卿補任~

 古文書・古記録を読んでいると、当然、政治的背景を把握しないと、意味のわからない場合があります。政治的背景を構成する要素はたくさんありますが、その中の一つに高位高官につく人物を把握することがあげられます。なぜなら彼らが朝廷を動かし、政治の主導権を握っていたからです。高位高官につく人物を調べるには、『新訂増補国史大系』の第53巻から第57巻に収められている『公卿補任』という、毎年の公卿に相当する人物の名を官職順に記載された本から調べることができます。

 実際に治承四年を調べてみると、関白・内大臣、正二位は、藤基通という人物が最初に記されています。この藤基通は近衛基通の事です。公卿補任は氏で明記されているので、ほとんど藤原氏の藤が独占しています。はじめて従三位となった者は、生没年や昇進履歴などが付記されているので、どのような人物か大雑把に把握することができます。また治承四年の近衛基通のように割書きで、二月二十一日止関白為摂政(新帝受禅日)。勅受兵仗如故之由宣下。四月二十一日従一位(御即位次。歳二十一)。と年内の異動が記されているので、流動的な政治の流れをつかむことができます。近衛基通は二月二十一日に安徳の受禅日に、関白から摂政になりました。また四月二十一日の即位により、正二位から従一位になったのです。

 左大臣従一位は同(となりの藤基通と同じという意味なので、藤)経宗。右大臣従一位に同兼実。大納言正二位に同実定と源定房。権大納言正二位に藤隆季・同実房・同実国・同宗家。権中納言正二位に同兼雅と平時忠。従二位に藤忠親・同良通。正三位に同成範・平頼盛・藤朝方・同実家と続きます。そして参議正三位に平教盛・藤家通・同実守・同頼定・同実宗・同長方。正四位下に同定能と源通親が記されています。

 この後に散位という位階だけがあり、官職についていない人物も書かれています。ここには前権大納言に平宗盛や非参議の平知盛など平家一門の名が見られます。

 このように「公卿補任」を通して、当時の高位高官を把握することができます。公家の日記は朝廷内の儀礼や出来事を中心に書かれていることが多いので、そうした古記録を読む際は、特に「公卿補任」に目を通す必要があります。