前回の史料講座では、安房国に落ち延びた頼朝が幼い頃に親しく接していた安西景益に参上するように命令を下した箇所を解説した。今回はその続きを読みながら、頻出する「之条」、「之由」、「之許」、「之趣」などについて述べてみたい。
「吾妻鏡」治承四年九月四日条
「治承四年(1180)九月大四日癸丑。安西三郎景益依レ給二御書一。相二具一族并在廳両三輩一参二上于御旅亭一。景益申云。無二左右一有レ入二御于廣常許一之條不レ可レ然。如二長狹六郎一之謀者。猶満衢歟。先遣二御使一爲二御迎一可二參上一之由。可レ被レ仰云々。仍自二路次一。更被レ廻二御駕一渡二御于景益乃宅一。被レ遣二和田小太郎義盛於廣常之許一。以二藤九郎盛長一。遣二千葉介常胤之許一。各可二參上一之趣也」
ではさっそく現代語訳を加えながら進めていく。
「安西三郎景益依レ給二御書一。相二具一族并在廳両三輩一参二上于御旅亭一。景益申云。無二左右一有レ入二御于廣常許一之條不レ可レ然。如二長狹六郎一之謀者。猶満衢歟。先遣二御使一爲二御迎一可二參上一之由。可レ被レ仰云々。」
頼朝の書状を受け取った安西景益は、一族と在庁官人を二、三人連れて頼朝の居る場所へ参上した。
景益は「用心せずに上総介広常の許へ行くのは良くないでしょう。なぜなら長狹六郎のような謀を秘めた者が沢山いると思われるからです。まず使いを遣わせて、お迎えのために参上すべきだということを御命令になるべきだと」申した。
この箇所では「之条」と「之由」が出てくる。「之条」は直前の文節と文の主部を形成し「〜であること」や「〜すること」を意味する。今回も「用心せずに上総介広常の許へ行くこと」という主部を形成している。そして「之由」も「〜ということ」を意味する。「之由」の後はだいたい動詞がくるので、その動詞を受けた目的語となる。
続いて、
「仍自二路次一。更被レ廻二御駕一渡二御于景益乃宅一。被レ遣二和田小太郎義盛於廣常之許一。以二藤九郎盛長一。遣二千葉介常胤之許一。各可二參上一之趣也」
安西景益の進言を受けた頼朝は、馬を廻らせて安西景益のお宅に入った。そして和田義盛を上総介広常のもとに遣わし、安達盛長を千葉常胤のもとに遣わした。それぞれ参上せよという内容であったと書かれている。
この箇所の「之許」は、「〜のもとに」・「〜のところに」という意味。「許」は(ばかりに)とも読む場合があるが、「之許」だと「〜のもとに」となる。次に「之趣」は、「之条」と同じく直前の文節と文の主部を形成する。「〜の内容」を意味する。今回も「それぞれ参上せよという内容であった」という使われ方をしている。
このように「之◯」はよく使われる言い回しで、「之◯」を覚えておくと「之」を(これ)と読むか(の)と読むかの見分けがスムーズになる。